■ Back Number  ■ 2005年 10月 No.167
 
2006年
2005年
2003年
2002年
2001年
2000年
 
【動産譲渡登記制度】
 商取引において、譲渡担保の設定を行なうケースがよくあります。例えば、大きな工場の機械とか、商品群一式とかなどの動産を担保として資金調達するというケースです。
 譲渡担保というものは、元々民法で想定していない制度です。長い商取引の歴史の中から生まれてきた制度といえます。したがって動産を担保として譲渡するにあたっては、民法の動産の引渡し以外に対抗要件がなく、取引の安全という側面を考えると、その動産が別の他人の手元に渡ったり、盗難にあった場合には難しい法律問題が生じますし、客観性に乏しいという問題がありました。
 これについて、今度は、「動産譲渡登記制度」というものがスタートすることになりました。
これは、動産譲渡の対抗要件に関する民法の特則として、「法人」が譲渡する場合の、動産の譲渡については、登記をすることにより民法上の引渡しがあったものとみなされる制度です。

 この制度スタートにあたり、取り扱う法務局は一箇所だけで、東京法務局が全国の動産譲渡登記を取り扱います。
1 登記の対象
 法人が譲渡人である動産の譲渡に限定。
譲渡の目的物が個別動産か集合動産かは不問。
2 登記の存続期間
 原則として10年以内。
3 登記事項の開示
 登記事項の概要は、何人に対しても開示。
 すべての登記事項は、譲渡の当事者、利害関係人、譲渡人の使用人に対してのみ開示。
4 登記事項概要ファイルの創設
 譲渡人の本店等の所在地を管轄する法務局等に登記事項概要ファイルを備えて登記事項の概要を記録し、何人でもこのファイルに記録されている事項を証明した書面(概要記録事項証明書)の交付を請求できる制度を創設する。

 この制度を創設した目的としては、譲渡担保や証券化として動産が扱われるときも、実際は元の所有者の手元におかれ、占有改定というやり方で、以後譲り渡した相手方のために元の所有者が占有を続けるという形をとるため外形的には判然とせず動産を活用した企業の資金調達の円滑化の阻害になるという指摘がありました。そこで、登記によってその公示性を明確にし対抗要件を備えることとしました。
 今回の制度では、あくまで「法人が行なう」動産の譲渡のみを対象としています。
 この動産譲渡登記があったときは、当該動産について民法178条の動産の引渡しがあったものとみなされ、動産譲渡の対抗要件が具備されます。したがって同一の動産について二重の譲渡が競合した場合は、不動産と同様に登記の先後によって優劣が決まります。
 動産譲渡登記は、動産の譲渡の事実を公示するもので公信力はありませんから、動産の存在やその所有権の帰属を証明するものではありません。
 動産については、即時取得との関係が議論されます。平穏かつ公然に占有を始めた者が善意かつ無過失であるときは、即時にその動産の上に行使する権利を取得するという民法192条の即時取得の条文があります。
 動産譲渡登記の目的である当該動産について、それを譲り受けた者に即時取得が認められるかどうかについては、譲受人に登記の有無を調査する義務が認められるかどうかで判断されるものとします。法律ではそれ以上細かい判断基準を設けず、具体的には裁判に委ねるものとしています。
 ただ、法務省の見解では、倉庫内の在庫商品等のような集合動産譲渡担保のような場合、譲渡人(譲渡担保権者)がその営業の範囲において商品等を処分する権限を有するのが一般的なので、即時取得の成否を論ずるまでもなく、譲受人は商品等の所有権を承継取得することになります。また仮に債務不履行等により譲渡人が処分権を喪失した場合でも、商品の譲受人は、そのような事情を知りえないのが通常ですので、登記の有無を調査しなくても過失があるとはいえず、即時取得が成立するものと考えられるとしています。
 また、個別の動産についても、普通は取引の迅速性が求められること(普通は目の前で即取引するのでしょう)、一般に買主が売主に登記事項証明書の提示を強制する立場にないことなどから譲受人に登記の調査義務を求められることはなく、登記の調査をしていなくても即時取得は認められると考えられています。ただ、金融機関の場合は、集合動産について調査をしなかったことにつき、注意義務を尽くしたとはいえず、特に高額な動産や活発に譲渡担保の目的として利用される機械設備等の動産については、一定の注意義務が生ずると判断され、調査を怠ったときは過失が認定される可能性が高いです。

動産譲渡登記所で発行する証明書は、登記事項のうち個々の動産を特定する事項を除いた事項を記載した「登記事項概要証明書」(誰でも請求できます)と個々の動産の特定も含めた全部の登記事項を証明した「登記事項証明書」(動産譲渡登記の当事者、利害関係人のみが請求できる)があります。登記の申請は、動産譲渡の譲渡人(法人)と譲受人が共同で申請します。


 動産譲渡登記制度の創設と併せて、債権譲渡登記制度も改正されました。この改正により、債務者の特定してない賃料債権、クレジット債権等の将来債権の譲渡も登記できるようになりました。
 また、債権譲渡登記等がされるごとに登記事項の概要を商業登記簿等に記録する制度も廃止され、動産譲渡登記と同様に譲渡人である法人の本店所在地の法務局において債権譲渡登記事項概要ファイルが設けられ、同ファイルに債権譲渡登記をした旨、譲受人の表示等が記録されます。従って、従来は、商業登記の会社証明をみると債権譲渡登記がされている旨の存在を確認できましたが、本改正以降は、動産譲渡登記と同様に別途債権譲渡概要記録事項証明書をもって債権譲渡登記の存在を確認します。
▲ページTOPへ

Copyright(c) 2005 愛宕法務経営事務所