■ Back Number  ■ 2005年 6月 No.156
 
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【新会社法(商法改正)】
〜新会社法の内容@〜

 近年、会社法の部分改正を重ねてきましたが、その集大成として、商法典の会社法の部分と有限会社法、商法特例法等をすべてまとめて「新会社法」の制定が行われることになったことは、前回の「あたごレポート」記載のとおりです。今般の改正は、あわせて商法典そのものを漢文カタカナ混じり標記を口語体かな標記とするもので、明治時代に商法が制定されてからの、抜本改正ともいえます。 (平成17年6月13日現在、衆議院において5月17日に可決承認(一部修正)され、参議院において審議中)

新会社法の考え方
 今度の改正は、戦前に創設された有限会社法(これまでは商法の特別法という扱いでした)を廃止し、あらゆる会社組織をまとめた統一法典とすることに意義があります。そして、その特徴として、アメリカ型の会社法を意識したベンチャー発展型企業の戦略的道具としての側面としての機能と、従来型の閉鎖型会社組織の側面の機能の二つの方向性をめざせるようにし、法的な組織としては統一型にしたというところにあります。
 今般の新会社法によると会社としの機関設計は全部で39通りあります。
 物的会社としては、株式会社一本にして有限会社を廃止しました(人的会社としては、合名会社・合資会社を事実上一本化するとともに合同会社(LLC)を創設。さらに特別法で有限責任事業組合(LLP)も創設された。人的会社については、回を改めて解説する。)

閉鎖型の会社
 まず、株式の譲渡制限のある会社、ない会社に大別し、譲渡制限のある会社においては、従来の有限会社に近い組織も選択できるようにしました。株式の譲渡制限をかけるということは、外部からの資本参加者を制限する、すなわち閉鎖型の会社にするということを意味します。有限会社は、その制定当時は、株式会社が譲渡制限の制度はあるものの要求される組織がなお過大であったことから、ある程度簡素化して設立できるようにし、その代わりに出資者である社員の数は50人以下とする閉鎖型組織として設計されていました。そのかわり、一人取締役を許され、その任期はなく、監査役の設置は任意で、決算について公告の義務はありませんでした。地域に密着して、小規模の閉鎖型法人としてメリット、つまり法人として会計ができればよい、取引ができればよいというニーズには煩雑な組織や財務の開示が不要だったからです。
 新会社法では、定款自治の制度を従来よりも拡大し、会社組織の組立方法を39通りとすることができるようになりました。その中の1類型として、譲渡制限規定を設置している株式会社においては、取締役1名のみの選任でよいことにしました。ただ、有限会社の取締役のように任期がないというわけには行かないので、有期としましたが最長で10年間の任期がとれるようにしました。この場合、監査役を行いことは可能です。ただ、新会社法においては、取締役の法的位置づけとして普通の取締役は有限会社の例のように各自に代表権があるものとし、取締役が複数いる場合に取締役会において代表取締役を選任することにより代表とならなかった取締役は代表権から退くという構成にしてあります。また、監査役を置かない場合は株主が監査役に相当する権限を持ち、会社に対して監査的な要求を行えます。ですから、取締役や株主の法的性格が変わるわけで、小規模閉鎖会社の場合、複数の仲間が利害関係が対立したり、会社乗っ取り屋のような輩にうっかり権限を与えると排除が難しいばかりか、逆に排除されてしまう危険性がありますから、よく研究をしなければいけません。

ベンチャー型・アクティブ型の会社
 一方、ベンチャー型で進めて行こうとする場合、譲渡制限の会社でも複数の取締役=取締役会の設置、監査役または複数の監査役=監査役会の設置、委員会の設置が可能です。また、会計監査人という制度も創設され公認会計士や税理士がその任にあたることができます。現在は銀行等による中小企業金融は、ビジネスローン型の無担保融資が主流となりつつあります。これは、会社の財務内容や成長性などを審査し、単なる担保主義ではなく事業の可能性、すなわち資金の流れなどによる回収可能性、安定性を判断して融資しようというものです。その結果、不良債権マニュアルによる企業格付の策定も加わり、小規模の会社であっても財務内容の開示がきちんとしている会社、つまり財務データにより資金状況が明確になり、いつ資金が必要でいつ資金が戻ってくるのかがガラス張りでわかり、かつそのデータが信用できる会社が融資対象先となります。ベンチャー型企業は、直接金融だけでなく間接金融として借り入れのお世話にもなる余地は十分にあるわけで、監査機能が拡充されているか、あるいは会計監査人が設置されているかなどで信用力にかなりの差が出ることになります。ただ、会計監査人は取締役と同じ法的責任を負いますから、会計士や税理士の先生方がおいそれと就任に応じてくれるかは、その会社の信用次第となりますから、難しいところですが逆に設置できた場合の信用度は大きいでしょう。

株式資本政策
 また、種類株式の発行や部分的な譲渡制限の設置、社債の発行など自由度の選択肢は増えました。ただ、昨今のポイズンビル(毒薬条項)をめぐる法務省・経済産業省の指針、東京地裁で出された新株予約権発行差し止め仮処分申請に対する決定、東京証券取引所が示した指針などにより、かなり制限的な運用が求められています。アメリカでは、例えばあるVCが投資をして得た種類株式Tがあったとして、何らかの事情により次回の投資に参加しなかった場合、別のVCUが参加して種類株式Uを得た場合、定款の変更により種類株式Tを強制的に普通株式にして、しかも交換比率によりシェアさえも縮小させることができる手法があります。今回の改正ではシェアの縮小をあとからの定款変更では難しい部分もあることながら、ある程度似たところまではできないこともありません。ただ、運用面では上述のとおりかなり制限されるでしょう。いずれにせよ、ベンチャー型としかなりダイナミックなことででき得るということです。

 次回以降は、さらに各論として数回に分けて、ポイントを解説していきます。

  • (当事務所では、今秋以降、「会社法改正セミナー(仮題)」を全国各地で開催する予定です。詳細はまた追って開示いたします。)
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