■ Back Number  ■ 2005年 3月 No.150
 
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【企業防衛と企業支配】
〜ニッポン放送新株予約権をめぐって〜

 ニッポン放送をめぐるライブドアとフジテレビの抗争に関連する、ニッポン放送のフジテレビに対する新株予約権発行に対するライブドアの差し止め仮処分申請について、東京高裁でも発行を認めない決定がされ、事実上確定しました。
 決定の結論自体は、おおむね予想された内容でしたが、今般の決定では、敵対的買収を受ける局面で、その対抗策を正当化できる条件をより具体的に列挙されたことが特徴的で、今後の法的対応策の指針となったといえます。

取引の安全
 今回の東京高裁の決定による考え方としては、取締役及び取締役会の位置づけについて、取締役は、株主の多数決によって、その会社の執行機関として選任をされるものであるとし、選任者は株主であり被選任者は取締役であるから、選ばれる立場である取締役が先任者たる株主の構成の変更を主な目的として新株等の発行の許容は商法の法意に明らかに反すると構成している。
 そして、仮に好ましくない株主を阻止するために定款に株式の譲渡制限を設けられるような規定があるのであり、そのような制限をせず公開会社として株式市場から資金調達をしながら、多額の資本投下をして大量の株式を取得した株主が現れると、取締役会が事後的に新株等の発行して、当該買収者の持ち株比率低下をさせる行為は投資家の予測可能性という観点からも許されないとする。
 これは、公開会社としての取引の安全という原則的法理について、それを原則とする以上、当然の法理といえる。つまり、民事法は取引の安全をめざしているが、特に商事関係の法務においては、それが顕著になっているのが特徴である。取引の安全なくして公正な商取引がないからである。すると、取引を行う前提条件として、その条件が後だしジャンケンのような後からひっくり返らないことが条件でないと安心して取引ができない。そこで、投資家の保護と取締役会の行う執行と、どちらを優先するのかという均衡論になる。決定では、会社の発行する株式の総数、すなわち授権枠について言及し、株主総会の定款変更決議(これは特別決議)により、取締役会に新株発行等の枠を授権し、その枠の範囲内で取締役会は機動的に新株を発行できる権限を与えているが、これは具現化している事業計画に基づいた資金調達、その延長線上にある業務提携による業務上の信頼関係維持のための株式持合いによる新株発行、ストックオプションとしての従業員に対する新株発行などを想定しているのであって、本来事業経営上の必要性と合理性が要求されるとする。よって経営支配権維持というような取締役会の一般的権限である経営判断事項として扱うには悦脱しているような事項にまで無制限に認めているわけではないとする。また、そのために取締役会の権限乱用を阻止するため、新株発行事項の開示を要求し、株主が差し止めを求める権能を商法は用意しているとする。 そういう位置づけで、選ばれる立場である取締役が、選ぶ立場の株主の構成を律するのは本末転倒である指摘しているのである。
 従って執行機関である取締役会の権限の限界もしくは株主から経営について授権されている範囲が指摘されていると言える。株主と取締役会が対決状況になった場合、取締役会は万能ではないということは言えるだろう。取引の安全と商法の定める会社の組織構成を原則的に考えると当然の結論といえる。
 これは会社は誰ものかという大きな議論について、法律的な回答である。それは、そもそも商法という法律の前提は、商行為の安全そのものの確立が一番の目的であり、その制度の中における株式会社制度は、広く外部に多数の投資家を求めて資金調達をし、その出資者である株主に議決権を持ちつつ、業務の執行は取締役に委任されるという原則を確認したものである。これまで、株式持合いにより安定株主がものを言わぬ時代が長きに渡ったため、取締役会が会社を牛耳る最高機関と錯覚される環境にあった。また、非公開の会社においても社長イコール大株主というパターンが大半で、それも社長や取締役会が会社の支配者と錯覚をもたらしていた。公開によって外部の株主を招くとは、つまり、会社の法律的支配者を新たに招き入れることに他ならない。株式の取引は、もちろん単なる投機目的もあるが、一方で会社の支配権獲得もまた重要な売買のファクターなのである。今回の決定は、その原則を確認する重要な決定といえる。
 これは、大企業だけではない。新興市場に公開する場合も同じである。最近、ある市場に公開していた会社も、その旧態依然として経営発想に株主から鋭い糾弾をされた事例があります。

後発的企業防衛の許される条件
 さて、決定では、買収の事態が起こったときの、後発的に企業防衛としての既存株主の支配権維持のための増資等で「著しく不正なる方法」と言われない条件として四つを挙げた。@株価を吊り上げて会社に買取らせることなどを目的とした、グリーンメーラー目的の買収の場合、A会社経営を一時的に支配して知的財産権、企業秘密、ノウハウ、主要取引先、顧客などを外部に移転させるなどいわゆる焦土化目的の買収の場合、B被買収会社の資産を担保とするなどLBO目的の買収の場合、C資産の切り売りや短期売買利益目的の場合。これらのケースがはっきりしている場合は、このような事例の増資等による企業防衛が許されるとした。ただし、その立証責任は買収される側にあるので、はっきりこの条件にあうと立証するのは難しい。典型的には、過去に同様な手法で買収を繰り返している事実がある場合であろう。
 なお、LBOについて、これはかって80年代から90年代前半の米国ではやった手法で、かなり批判される弊害も後半では確かにあったが、必ずしも全面否定される手法ともいえない。LBOのスキームをとった時点で、対抗容認とされる決定に波紋が出ている。この点は、まだ議論されるだろう。
 今回の一件で強く言えるのは、取締役会は万能ではなく、株主構成、つまり資本政策を常に検討すべきであり、かつ親密株主をどう安定的に増やすかという経営側の課題をつきつけた。それには、株主との対話が必要であり、株主の指示なくして経営が成り立たないことを示している。また、今後の敵対的買収の対策としては、株価を高める、すなわちは企業価値を高めることが経営の重要課題となる。それは、負債や不良債権の負担の軽い貸借対照表をもち、株主還元が厚く、営業面の効率化と成長性を示さなければならない。公開という場面に登場する以上、経営者は常に緊張感を持って、どうしたら企業価値をあげられるか考え続けねばならない。
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