■ Back Number  ■ 2003年 11月 No.137
 
2003年
2002年
2001年
2000年
 
【商法改正03】
03年9月施行商法改正

 今年も商法改正がありました。今年の通常国会に議員立法で提出され、7月に可決成立、9月に施行となりました。

改正のポイント
改正の要点は次の2点。
@ 定款授権に基づく取締役会決議による自己株式の取得の容認
A 中間配当限度額の算定にあたり、最終の決算期後に資本または法定準備金の減少を行った場合、減少した資本又は法定準備金相当額を純資産額からの控除額に含めないこと

定款授権による取締役会決議による自己株式の取得
 いわゆる「金庫株」の取得について、取締役会決議で決定できるようにしようとする趣旨である。
 これまでは、例えば営業譲渡や解散などにつき反対する株主の株式買取や譲渡制限会社における譲渡不承認の場合における買取指定先移転不能などのケースにおける買取など法律に別段の定めがある場合を除き定時株主総会の決議において次回定時総会終結までに取得できる株式の種類及び数ならびに取得価額の総額を決議しなければならないことになっている。
 このため、期中に組織再編を行う必要から取得が必要になるケースや株価急落のために自己防衛のための取得を経営陣が考えても、定時総会決議で枠が設定されていない限り機動的な自己株式取得ができない。
 そのため、これらの事態を想定して多めに枠を設定した場合、定時総会で決議した自己株式取得価額の総額は中間配当限度額の算出にあたり純資産から控除されるため中間配当限度額が減少する。また取得枠を消化できなかった場合に翌年の定時総会で再び枠の決議を促しても株主の理解を得にくいことが多い。
 さらに、定時総会による自己株式取得の決議が実際の自己株式取得に至らなかったとしても、自己株式取得の期待感が高まるシグナリング効果が起こり、自己株式の取得の意図もないのに定時総会の決議を行ったことで風説の流布に当たるとする証券取引法上の疑念という懸念が生ずる。
 以上の問題点の指摘があるため、今回の改正に至った。

定款授権取締役会決議自己株式取得制度概要
@ 定款の記載
 この制度による自己株式取得を行うためには、定款において「取締役会の決議をもって自己の株式を買受けることができる」旨の定めが必要である。法律上はこれだけの記載で足りる。
 なお、この定款で取締役会の決議による自己株式取得について、その取得を認める株式の数や取得価額の総額について上限を設定することは可能である。
 これからこの制度導入を考える会社は、だから定款の変更手続きを行なわなければならない。これは定款の変更だから、定時でも臨時でも株主総会の特別決議であればよい。
A 取得方法
 定款授権による自己株式の取得は、市場取引または公開買い付けの方法によらなければならない。
 自己株式の取得は、結果として特定の株主に対する会社財産の払い戻しになるから、売主を会社が恣意的に選択することができるとすると株主平等原則に反することになるので、株主平等に処分機会が与えられる市場取引または公開買い付けに取得方法を限定したものである。
 もちろん、従来の規定も生きているので、相対取引の場合、あらかじめ定時株主総会において、その取引の相手方、取得株数、取得価額を開示して決議を得ることは可能である。
B 取得財源
 定款授権による場合の自己株式取得財源は、中間配当財源を限度としなければならない。
 自己株式取得は、株主に対する会社財産の払い戻しと見ると利益配当と同様の性格があり、期中において自己株式取得の財源を設定という点では期中に一定の日を定めその日に株主に対して金銭を配当する中間配当と同じ性格を有するから定款授権自己株式取得で設定できる取得価額の総額は中間配当財源を限度とすることになった。また、この場合でも期末において欠損が生じる惧れがある場合は自己株式の取得が禁止され、もし欠損が生じた場合は取締役の補填責任が生ずる。
C 次期定時株主総会における報告
 定款授権により取締役会決議で自己株式取得を行った場合、取得後最初の定時株主総会で、自己株式の買受を必要とした理由・買い受けた株式の種類と数、及び取得価額の総額を報告しなければならない。
 株式取得という経営判断につき株主によるチェックの機会を与えるためである。

ベンチャーの利用可能性と限界
 ベンチャー企業等の中小企業の場合、定款授権による自己株式の取得は限界があろう。まず第一に定款授権であるなしにかかわらず、取得財源の確保は現実的には難しい。ベンチャーのアーリーステージやミドルステージは、赤字決算になる可能性が高いからである。
 ただ、その一方、グリーンシート市場登録企業の場合、その気配値における株価の防衛等のために自己株式取得を検討するケースも今後考えられる。しかし、そもそもグリーンシート市場は、市場取引なのかという根本の問題はある。以前に筆者は商法改正の説明において自己株式取得における市場での取引にグリーンシート市場も含めてもよいという趣旨の見解を発表したが、厳密に議論すると灰色という見解も成り立つ。いずれにせよ、現在過渡期の市場で、今後更に多数の投資家が参加する状況となれば自ずと解消されよう。

中間配当財源の計算方法の見直し
 改正前では最終決算期後に資本または法定準備金を取り崩しても中間配当限度額計算にあたっては減少前の資本及び法定準備金の合計額を控除することとしている。例えば資本金100億円、法定準備金100億円、未処分利益30億円(純資産額230億円)の会社が定時総会において法定準備金60億円を取り崩し50億円の自己株式取得枠を設定した場合、中間配当限度額は純資産230億円−(資本金100億円+法定準備金100億円)−自己株式取得枠50億円=▲20億円となり中間配当ができなくなる。しかし、実態は取り崩した準備金のうち少なくとも未処分利益30億円は現存しているわけで、過剰な規制で株主は半年も金銭分配を待たされることになる。そこで減少した資本金および法定準備金に相当する額は中間配当限度額計算にあたり含めなくてもよいこととした。
▲ページTOPへ

Copyright(c) 2003 愛宕法務経営事務所