■ Back Number  ■ 2002年 5月 No.115
 
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【公開前規制の見直し】
 東京証券取引所、大阪証券取引所、日本証券業協会などにおいては、株式の上場申請に関して公開前規制というものがあります。これは元々、リクルート事件を契機に平成元年に導入された制度で、公開前に株式を入手して、それが公開直後にこれを売却して利得を得ることを防止し、株式公開に伴う市場の公正性を確報しようという趣旨で設けられた規定です。
 この公開前規制については、昨年6月において政府の産業構造改革・雇用対策本部が「新市場雇用創出に向けた重点プラン」の中で「株式公開前の一定期間における第三者割当の禁止、転換社債等の強制転換等の規制について、早急な見直しの実現を図る」との提言が出され、昨年9月においてあいついでこの公開前規制の変更が決定され施行されました。
 今回は、新しい公開前規制の中身に整理検討してみたいと思います。

規制緩和の背景
 今回の規制緩和に至る直接のきっかけは前記政府の提言によるわけですが、その背景としては次の点があげられています。
 そのひとつは、新興企業にとって柔軟な資金調達がしにくいという点です。従前の公開前規制によると公開前の1年間は第三者割当が一切禁止されています。しかし、公開というのは、実際は証券会社を通じて公開審査を行い、その結果公開が可 とされて初めて公開にたどり着きます。しかも、その時のマーケット水準によっては、見送りという場面もありえます。つまり、予定としては不確定であるにもかかわらず、想定する公開予定より1年前から第三者割当による資金調達は封じ込められることになり、ベンチャーにとっては資金繰りが厳しくなると言えます。さらにCB、ワラント債も強制転換を迫られますが、これも同様の理由で不確定な予定の段階で、払込資金の調達を迫られということになり投資家に極めてリスクを迫ることになります。
 ついで、このような規制は日本独特の制度らしく、プライベート・エクイティ・ファイナンスが国際化するなかで海外の投資家から理解が得られにくい環境となっています。


規制緩和前の公開前規制



 第三者割当については、上場直前期末の1年前の日の翌日から上場直前期末までを「制限期間」とし、その期間内に行われた第三者割当による新株は、上場後6ヶ月間継続保有する義務があります。これは、CB・ワラントの権利行使による新株発行も含みます。なお、上場6ヶ月後が、当該新株発行後1年経過前である場合は発行後1年まで継続保有しなければにれません。
 上場直前期末の日の翌日から上場日の前日までを「禁止期間」とし、この間での第三者割当増資は一切禁止されます。
 上記の規定に抵触する場合は、条件が成就するまで上場申請を延期しなければなりません。
 「禁止期間」中は、CB・ワラント債は発行できません。上場直前期末前までに発行されたCB・ワラントは、上場直前期末までに転換又は権利行使により新株発行を行う義務があります(ストックオプション、疑似ストックオプションは除く)。


規制緩和によりどう変わったか?




 「禁止期間」が廃止になりました。従前の禁止期間も含めて「制限期間」となります。この期間に発行された新株は、上場後6ヶ月後継続保有(新株発行後1年経過未満の場合は、1年経過まで)が条件となります。
 さらに、従前は制限期間中に発行された新株は、継続保有のために幹事証券会社への預託が義務づけられていましたが、上場申請会社と割当先との二者間で継続保有の確約があればよいことになりました。ただし、上場申請会社に対し、取引所、日本証券業協会等から所有状況の照会に回答する義務が課せられました。従って上場申請会社に従来より厳格な株主管理が求められます。
 また、転換社債等の強制転換等の規制も廃止になりました。これによりCB・ワラントは、そのまま持ち越しできます(継続保有の確約が必要な場合あり)。

グリーンシートの特例
 日本証券業協会だけの規定では「グリーンシート銘柄の公募増資については、継続保有の確約を要さない」という規定があります。つまり、ジャスダックに上場申請するときは、グリーンシート市場での公募による新株は、既に上場された株式と同等に扱い制限期間の対象にしないということを意味します。ただし、これはジャスダック上場の場合の扱いで。他の市場では、他と同様に制限期間における新株発行として扱われます。

規制緩和と資本政策への意義
 公開前規制の緩和により禁止期間の廃止とCB・WBの強制転換規定の廃止は、成長性の高い資金需要のある企業にとっては時期を選ばずに資金調達を行えるということを意味します。また、CB・WB保有者にとっても不確実な時期に無理に転換、権利行使により資金負担リスクを負うことがなくなり、当該企業にとっても資金調達を受けやすくなるメリットがあります。
 その一方で、資本政策の柔軟性が増すわけで、上場後の株価見通しを誤ると直前のファイナンスにより参加して投資家に不測の影響を与えるおそれがあり、ファイナンスにおける株価設定についは、従来以上に慎重な判断が必要ということになります。
 ところで、グリーンシート銘柄の増資株式については、ジャスダックにおいて特例扱いされることになりました。つまり、同じ日本証券業協会の取扱の市場であるグリーンシート市場からジャスダック市場への市場の鞍替えとして、ここでの市場の銘柄の株式は、そのまま同じ扱いとして引き続き取引できるという発想なのでしょう。そうすると、ジャスダックに上場確実であれば、グリーンシート銘柄になった時点でプレ上場した銘柄ととらえることもできるわけで、ちょっと位置づけが変わるかもしれません(もっともその銘柄がジャスダックに上場できればですが)。

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