■ Back Number  ■ 2002年 3月 No.107
 
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【商法改正 (4)】

ー新株予約権とストックオプション・社債ー
 4月1日から施行になる会社法改正第二段については、その目玉に種類株式の話(前号参照)と新株予約権の話があります。

新株予約権とは
 「新株予約権」という言葉は、今回の改正で登場した用語です。改正前は「新株引受権」という用語がありました。新株引受権は、実は二つの意味で使われています。ひとつは、会社が新株を発行するときに、株主に対して当然にその新株を引き受ける権利があるという意味で使う新株引受権、もうひとつは、オプションとして将来にあらかじめ決められた行使価額により新株を発行を約束した、将来において新株を引き受けることができるという意味で使う新株引受権です。後者については、俗にワラントと言われているものです。
 今回の改正では、このワラントの意味での新株引受権を新株予約権と呼ぶことにし、再構成しました。

従来の新株引受権とどう変わったか
 一番大きな違いは、単独で新株予約権を発行できることになったということです。これまでは、新株引受権を単独で発行することはできませんでした。新株引受権付社債を分離型として発行して、すぐに社債部分を償還して新株引受権のみするなどの使い方とかありませんでした。これですと、まず社債の発行コストがかかり、ベンチャー企業のオーナーなど新株引受権を持たせたくても結構多額な資金負担が必要なことになります。
 今回の新株予約権では単独で発行することができるようになったので、その分コストがかからず機動的に発行できます。
 発行の手続きとしては、原則的には取締役会で発行決議を行えば自由に発行できます。
 ただし、譲渡制限のある会社が発行する場合、第三者に特に有利な条件で発行する場合などは別 に株主総会で特別決議を受けなければ成りません。
 新株予約権は、効力が発生すると証券を発行しなければなりません。また、その権利内容を記載した新株予約権原簿を整備しなければなりません。

新株予約権にも譲渡制限がつけられる

 新株予約権の発行の内容を取締役会で決議するときに、その新株予約権の譲渡をするときには取締役会の承認が必要な旨の条件をつけることができます。改正前の新株引受権にはこのような規定がありませんでした。しかし、これでは譲渡制限の会社の場合でも株式の移動は制限があっても新株引受権ならば制限無く譲渡できることになってしまい、実際管理の面 でも問題がありました。
 新株予約権では、予約権の譲渡制限をかけることができますから、ベンチャーのような制限会社では、会社が予期しないような人に予約権が知らないうちにわたるということはなくなります。

証券の発行
 前述のように新株予約権は、証券を発行しなければなりません(不発行とすることもできます)。原則として新株予約権の譲渡は証券の譲渡をもって対抗要件とします。これは有価証券の譲渡の法理と同じです。

ストックオプション
 今度の4月1日施行の改正の特徴としてストックオプションの規定の整理もなされました。条文上では商法上のストックオプションの規定はすべて削除され、ストックオプションは新株予約権の一類型と位 置づけられました。
 新株予約権は、権利行使を受けると新株を発行するか、もしくは保有する自己株式を移転する義務を会社が負います。つまり、従来は、自己株式型とワラント型の二つのタイプのストックオプションがありましたが、新株予約権一本となり、その株式の交付の仕方が二通 りと変わりました(結果として、あらかじめ自己株式交付予約型のストックオプションの規定はなくなり、その目的のため自己株式保有の規定もなくなりました)。
 従来の商法上のストックオプションとの違いは、以下のとおり。これまでは、発行済み株式総数の10%以下という制限がなくなった。付与できる対象が取締役、従業員のみという制限がなくなり、子会社や関係会社、弁護士・行政書士やコンサルタントなどの協力者などにも付与できる。権利行使期間の制限もなくなったなどより使いやすくなりました。
 ただし、ストックオプション税制の優遇をうけられる人があり、その条件を確認しておく必要があります。対象となるのは、当該会社もしくは商法上の子会社の取締役または使用人(従来は50%以上の株式の保有者は除外されていたが今回からはずれた)であること、権利行使期間は、株主総会の決議の日より最長10年間であること、その決議の日から2年間の権利行使待機期間があること、オプションの譲渡を禁止していること、1年間に権利行使する総額が1200万円以内であること(従前は1000万円)です。

有利な条件とは?
 新株予約権発行につき有利な条件で発行する場合は株主総会の特別決議が必要とされます。有利な「条件」とは、新株予約権の発行価額と権利行使価額の合計が、その時点の新株の発行価額とし、その価格とその時点の株式の時価と比べて安ければ有利ん条件とします。取締役会は、将来権利行使期間中の合理的に予想される株価を検証し、その価額を決めなければなりません。実際にその算出は難しく法務省が改正案制定時の説明ではディリバリブで使うブラックショールズ理論による金融工学の計算式を使うといいますが、いろいろと問題があり、今後もなお議論のあるところです。結局は、ベンチャーなどは、譲渡制限会社でもあり、従来どおりワラントやストックオプションの発行は株主総会の決議が必要だと思って進めた方が無難とと言えます。

社債も変わる
 これらの改正に伴い「転換社債」「新株引受権付社債」の名称も整理され「新株予約権付社債」となります。従来の分離型の新株予約権は、単に新株予約権と普通 社債が併存して発行されるものと位置づけました。転換社債は、新株予約権を付した社債とし、社債の発行価額と新株予約権の権利行使価額を同額としたうえで、権利行使の時に必ず社債が償還され、その償還金が権利行使の払込に充てられるものとしました。非分離型の新株引受権は、社債の額と新株引受権の行使価額が必ずしも一致していないタイプで、権利行使時に社債が償還されますが、場合によってはその範囲内の権利行使であったり、逆に権利行使のために別 途払込が必要な場合などのバリエーションがあります。
 いずれの場合もベンチャーでは株主総会の決議が必要となりますが、これらの整備により従来よりも幅広い金融商品設計が可能となります。

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