■ Back Number  ■ 2000年 12月 No.62
 
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【焼き芋考】
〜企業の構造改革の意味〜

 久方ぶりの「あたごレポート」となりました。諸般の事情で発行に間があきまして申し訳ありません。多数の皆様からお問い合わせいただき反響の大きさに驚いている一方、早く次を送ろうと思いながら時間がかかってしまいました。お詫びします。今後も「あたごレポート」をよろしくお願いします。

 さて、大分寒くなってきました。12月に入って冬到来という感じです。冬というえば焼き芋屋が町を徘徊しはじめ、これも冬の風物詩で冬の到来を印象づけるものです。
 ところで急にふと焼き芋屋について考えてしまいました。焼き芋屋さんは、まずすべて個人経営で、かつ屋台スタイルの営業しかないのはなぜだろうという考察です。
 実際、移動する車に釜をつぎ込んで町中を移動する焼き芋屋は数あれども、店舗を構えて販売しているところはありません。また、併設して焼き芋を販売しているところもまずありません。
 夏場になりますとアイスキャンデーやアイスクリーム売りが都会では現れます。アイスキャンディーやアイスクリームは、ちゃんと店舗販売をしているところがあります。何故なのでしょう。
 きちんと統計をとったわけではありませんが、現在、町を回っている焼き芋屋は大半が出稼ぎ農家と夏は別の商売(アイスクリーム売り、変わったところで焼きトウモロコシ売りなどもある)をしている人がほとんどです。つまり臨時開業のような形で商売をしているわけです。このようなスタイルですと店舗を構えるという多額の設備投資はできません。コストが過大になるからです。車による焼き芋売りのコストを考えると芋の購入費、燃料代、ガソリン代くらいです。芋を包む紙は、いまだ新聞紙や週刊誌を再利用したもので、おそらく家族も手伝って作っているのでしょう。焼き芋そのものもそんなに利益を乗せて販売できませんから、原価意識を考えると車移動型の販売にならざるを得ず、とても店舗で販売することなど無理なのかもしれません。
 それでも原価をうまく調整して、販売量もそこそこ確保すればラーメン屋さんの屋台がゆくゆくは店舗を出すのと同じ様なことができるはずです。それにもかかわらず、おそらく戦前からあったであろう焼き芋屋が独立した話は聞きません。一年を通して売れるものではないというのも理由かもしれませんが、むしろ他に原因があるようです。
 実は、少し前くらいまでは、焼き芋が食べたければ何も焼き芋屋さんを待たなくても自分の庭で焼いたものです。もっとも落ち葉を集めて焼いてもなかなかうまく焼けません。ご経験のある方も多いと思います。最近ではダイオキシンの問題から、仮にダイオキシンが出なくても近所の手前落ち葉を庭で焼くことは難しくなりました。また、庭がある家も少なくなりました。でも焼き芋の需要は変わりません。家の中でじっとしているとどこからか「いしやーきいもー」の声、あー食べたいと居ても立ってもいられず、財布を握りしめて買いに行くことになります。
 つまり、自分のいるところのそばまで販売に来てくれることが重要なのです。ある食料品関係者に聞きましたところ、店舗でおいてもわざわざ買いにはこないということなのです。もうシステムとして自分のところまで売りに来てくれる実に利便性にすぐれた体制になっているわけです。だから焼き芋屋は屋台スタイルが定着し、あえて店舗にしないわけです。利便性という観点でみると実に理想的な営業形態になっていると言えます。
 何故、焼き芋屋の考察を延々書いたかというと、21世紀をめざした会社、産業のあり方のヒントがあるように思えるからです。少ないコストで、ユーザーにとって理想的な利便性をもっていれば、他の形態では太刀打ちできないことを示していると言えるからです。
 別の話をしてみましょう。テレビを見ていたら、豆腐にこだわる料理屋の主人の話が出ていました。このご主人、もとは16歳から豆腐屋で修行した人で、どうしても今の市販の豆腐では納得できず、自分で大豆を仕入れて自分の厨房で豆腐を仕込んで店に出しているのです。これと同様な話はもちろんたくさんありますが、このようなスタイルは顧客の評判にあがり大層繁盛していると言います。 従来、規格大量生産主義の時代では、どうしたら大量の豆腐を作れるか販売できるかに主眼がおかれてきました。しかし、資本主義が成熟し、豊富に食材も手に入る時代になりますと逆にこだわりの豆腐への需要が高まります。これが多種少量生産時代の特徴です。ユーザーの利便性やユーザーの好むもの、「本物」を作り出すことによって支持を得るスタイルです。
 ただこの事例を見てもご主人一人が豆の選別から豆腐作り、料理、店の運営と一人何役もこなしています。逆に言うと、生産できる量にだから限界があるということです。実は、このようなニーズや営業方法は前からあります。でも今まで隆盛とならなかったのは手間がかかるからです。ITベンチャーだといって隆盛を極めているのは、ハイテク技術やITを利用して、従来は手間や多数の人手を必要としたことを簡単に処理することに成功したからです。新世紀に中小企業が飛躍するポイントはここにあるといえます。
 今、私は失業者向けの介護ヘルパー養成講座で周辺事情の講義をしています。介護事業の立ち上げは難しくないと話すと、こちらが驚くほど起業の意識をもっている失業者が多数います。実際に介護事業はやり方さえきちんとすれば採算はあいます。しかし、ヘルパーの現場を考えますと、やはり手間がかかり人手を要する事業です。しかし、そのまま手間や時間や人手がかかるままでは発展できません。先の料理屋も同じです。いつまでも一人でやっていると豆腐の生産も限界となるだけでなく、経営の方も手が回らなくなります。 手間や人手がかかる部分を解消する方法はないのでしょうか。ヒントは、何でも一人でやるのがよいかということです。
 業務の一部をアウトソーシングさせて分業することです。でも職人的技術はまかせられるか。任すことは可能と思います。それを可能とするハイテクな器械(高度な炊飯器、調理器など)は出現しへたな人に任すよりよっぽどいいものが出来ます。地域密着型の分業を促して、アウトソーシング先の技能の向上を要求して質を高めることもできましょう。一種のナレッジマネージメントですが、代替機能や分業による高度化を図って、手間や人手がかかるものを如何に利便性を示し、低コストで提供できるかが企業の課題と言えます。それができれば、他を圧倒できます。IT革命と言っても企業にどう生かせばいいかわからない経営者もいるでしょうが、実はIT革命でしなければいけないこととは、そういう意味だったのです。

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